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大阪地方裁判所 昭和48年(行ウ)5号 判決

守口市寺方本通二丁目二四番地

原告

橋口政士

同市寺方旧北寺方五一六番地

原告

橋口栄津子

同市高瀬町三丁目九番地

原告

川西博

同市大枝西町四五番地

原告

川西茂

同市高瀬町三丁目九番地

原告

川西明

右五名訴訟代理人弁護士

村林隆一

ほか四名

門真市門真七六一番地

被告

門真税務署長

北村寿

右指定代理人

麻田正勝

ほか五名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

一、申立

1  請求の趣旨

(一)  被告が原告橋口栄津子、同川西博、同川西茂、同川西明に対して昭和四六年一二月三日付でした相続税の更正処分のうち、相続税の総額七、〇八八、〇〇〇円をこえる部分、および過少申告加算税賦課処分を取消す。

(二)  被告が原告橋口政士に対して昭和四七年七月一一日付でした贈与税決定処分および無申告加算税賦課処分を取消す。

(三)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

2  被告の答弁

主文と同旨の判決を求める。

二  主張

1  請求原因

(一)  原告橋口栄津子、同川西博、同川西茂、同川西明(以下原告栄津子らという)は昭和四五年六月七日父川西栄蔵の死亡により同人の財産を相続したので、同年一二月七日被告に対し、課税価格の合計額を金三七、五六〇、〇〇〇円、相続税の総額を金七、〇八八、〇〇〇円とする相続税申告書を提出した。ところが被告は、守口市京阪本通二丁目一一番二宅地一四一・一五平方メートル(以下これを本件土地という)が相続財産に含まれるとして、昭和四六年一二月三日付で原告栄津子らに対し、課税価格の合計額を金四七、八〇九、〇〇〇円、相続税の総額を金一〇、五九二、八〇〇円とする相続税更正処分および過少申告加算税賦課処分をした。原告栄津子らは右処分につき異議申立および審査請求をしたが、いずれも棄却された。

(二)  さらに被告は、本件土地が昭和四五年一二月四日相続人である原告栄津子らから原告橋口政士に贈与されたとして、昭和四七年七月一一日付で原告政士に対し、贈与税額を金四、四二一、四〇〇円とする贈与税決定処分および無申告加算税賦課処分をした。原告政士は右処分について異議申立をしたが、合意により審査請求とみなされ、棄却の裁決を受けた。

(三)  しかし本件土地は原告栄津子らが相続したものではなく、したがつて原告政士が原告栄津子らから贈与されたものでもなく、被告の右各処分はこの点の認定を誤つた違法があるから、その取消を求める。

2  請求原因に対する被告の認否

請求原因(一)(二)の事実は認め、(三)の主張は争う

3  被告の主張

(一)  本件土地は被相続人川西栄蔵が前所有者鄭宗根からこれを取得して所有していたものである。すなわち、栄蔵は昭和三二年二月二八日鄭宗根に金三〇万円を貸与した際、同人所有の本件土地につき代物弁済予約を結び、同年三月一日栄蔵名義で所有権移転請求権仮登記を経由していたが、その後鄭の申出により、栄蔵は昭和三三年三月一一日鄭から本件土地を代金一三六万円で買取り、昭和三四年七月九日栄蔵名義に所有権移転登記を了していたもので、これが相続財産に属することは明らかである。

(二)  原告政士は栄蔵死亡後の昭和四五年一二月四日「真正な登記名義の回復」を登記原因として、栄蔵から原告政士名義に所有権移転登記を受けたが、本件土地は栄蔵が所有し、原告栄津子らが相続したものであるから、右所有権移転登記は原告栄津子らから原告政士への贈与にもとづくものにほかならない。

(三)  そこで被告は相続税財産評価通達に定める路線価方式により、本件土地を金一〇、二四八、〇〇〇円と評価して、原告栄津子らの相続税を更正し、かつ原告政士につき贈与税を決定したのである。

4  被告の主張に対する原告らの認否

被告の主張(一)(二)のうち、本件土地の前所有者が鄭宗根であつたこと、およびこれにつき被告主張の各登記がなされていることのみを認め、その余の事実は否認する。

鄭宗根に金員を貸与したのも、同人から本件土地を買受けその代金一三六万円を支払つたのも、すべて原告政士であるが、栄蔵が原告政士から委任を受けてこれらを行なつた関係上、仮登記および本登記についても栄蔵名義を用いたにすぎない。栄蔵は受任者として本件土地につき原告政士に移転登記をなすべき義務があつたが、これを履行しないで死亡したので、相続人である原告栄津子らがその義務を履行したのである。

三  証拠

当事者双方の証拠の提出、援用、認否は、記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりである。

理由

一、請求原因(一)(二)の事実(本件各課税処分の存在)は、当事者間に争いがない。

二、本件の争点は要するに、本件土地が亡川西栄蔵の所有であつたと認められるか否かの点にある。

本件土地がもと鄭宗根の所有であつたこと、およびこれにつき鄭から栄蔵へ昭和三二年三月一日に所有権移転請求権仮登記、昭和三四年七月九日にその本登記がなされ、栄蔵死亡後の昭和四五年一二月四日栄蔵から原告政士へ所有権移転登記がなされていることは、当事者間に争いがない。したがつて右登記の事実からすれば、他に特段の事情のないかぎり、鄭から本件土地を取得したのは栄蔵と認めるべきであるところ、原告らは右登記名義にかかわらず原告政士が鄭から直接に本件土地を買受け取得したものであると主張し、原告政士、原告博および証人橋口全宏はいずれも右主張に副う供述をしている。それによると、原告政士は昭和三二年二月二八日妻の父栄蔵を介して鄭から金融を求められ、同人に金三〇万円を貸したが、昭和三三年三月一一日に至り鄭の申出により原告政士が鄭から本件土地を代金一三六万円で買取ることとし、そのうち金三〇万円は右貸金をもつてこれに充て、残金一〇六万円は同年六月二八日から翌三四年五月二日まで七回に分けて支払つたものであり、その出所は自己資金五六二、〇〇〇円と実弟橋口全宏から借りた金四九八、〇〇〇円(いずれも枚方信用金庫守口支店の普通預金から引出したもの)であるというのである。

ところが、成立に争いのない乙第四ないし第六号証、第九ないし第一一号証によれば、栄蔵は昭和三六年一月弁護士村林隆一を訴訟代理人として、鄭を相手どり、栄蔵が鄭に金を貸し、次いで自己が鄭から本件土地を買受けて所有権を取得したものであると主張して、建物収去土地明渡等を求める訴を提起し(以下これを前訴という)、栄蔵はその訴訟で当事者本人として同旨の供述をし、一、二、三審とも栄蔵の勝訴に帰していることが明らかであり、原告政士が右取引に関与していたというような事情は、前訴の過程では全くあらわれていないのである。しかも、前訴における栄蔵の供述(乙第六号証)と本訴における原告政士の供述を対比すると、栄蔵は鄭方で同人に貸金三〇万円を交付したと述べているのに対し、原告政士は右金員交付の場所は同原告の自宅だといい、また売買代金一三六万円の領収書(成立に争いのない甲第一二号証)について、栄蔵は代金を支払つてこの領収書を受取つたと述べているのに、原告政士は代金支払の前に領収書をもらつたといつている(領収書の日付からすればそうならざるをえないが、そのこと自体通常の取引関係では稀有のことで、きわめて不自然である)など、両者の供述はいくつかの点で顕著なくいちがいを示している。のみならず、原告らが支払代金の資金源を明らかにする証拠として提出した原告政士と橋口全宏名義の枚方信用金庫守口支店の各普通預金通帳(成立に争いのない甲第二、第三号証の各一ないし三)を見ると、預け入れの開始はともに昭和三三年二月一五日で、以後昭和三四年九月初めまでは両者の預け入れ、払い戻しの日付および金額が全く同じであり、その後もほぼ足並みをそろえて出し入れが続けられていることが認められるのであつて、原告らの言い分にそぐわない感があるのを免れない(ことに原告政士が売買代金を完済したという日以後も両者の払い戻しの日や金額が奇妙に一致していることが不可解である)。もともと原告政士は被告に対する異議申立の段階では、売買代金の資金源として農協の預金とか郵便貯金とかを挙げ、最初から本訴におけると同旨の主張をしていたわけではないのであつて、こうした事情をあわせ考えると、はたして原告らの主張する預金が売買代金に充てられたものであるかはかなり疑わしく、原告らの主張はにわかに首肯しがたいものがあるといわざるをえない。

もつとも、原告政士の所持する売渡証書(甲第一一号証)には、買主として原告政士の氏名が記載されているが、証人柳原弥三郎の証言に照らすと、これがいつ誰によりどういう経緯で書かれたものか疑問があるし、また原告政士本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認める甲第六、第七、第九号証、第一〇号証の一、二(ただし第七号証中、村林隆一作成部分は成立に争いなし)によれば、前訴の提起追行から執行に至るまで原告政士がこれに事実上深くかかわりをもつていたことが窺われるけれども、そうだからといつて直ちに本件土地の買主が栄蔵でなく原告政士であることの認定に結びつくものでもない。

そのほか本件のすべての証拠を総合して検討してみても、登記によつて表象される栄蔵が本件土地の所有者であつたとする推定を揺るがすに至らず、したがつて結局本件土地は鄭から栄蔵が取得し、同人の死亡により原告栄津子らがこれを相続し、次いで原告政士が無償で譲受けたものと認めるほかはない。

三、そうだとすると、被告のした本件各課税処分に違法はなく、原告らの請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥村正策 裁判官 藤井正雄 裁判官 山崎恒)

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